近年、退職者による情報持ち出しが企業にとって深刻なリスクとなっています。情報漏洩の多くは外部からのサイバー攻撃と考えられがちですが、実際には社内関係者による内部不正が多数を占めており、特に退職時のデータ持ち出しは見過ごされがちです。
顧客情報、営業資料、技術データなど、退職者が在職中にアクセス可能であった情報は、意図的・過失を問わず外部流出のリスクに晒されています。情報の流出は、企業の信用を失墜させるだけでなく、損害賠償請求や法的トラブルへと発展する可能性もあります。
本記事では、退職者による情報持ち出しのリスクや代表的な事例、発覚時の対処法、そして未然に防ぐための対策について、社内不正調査のプロの視点から詳しく解説します。
既に情報持ち出しが発生している法人様は、こちらの情報持ち出し相談窓口までご相談ください。
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目次
退職者による情報持ち出しのリスク
退職者による情報持ち出しのリスクは以下の通りです。
個人情報の流出
退職者によって顧客名簿や問い合わせ履歴などの個人情報が持ち出されると、現場では顧客対応に追われる事態となります。たとえば、流出先から不審な連絡を受けた顧客からクレームが殺到し、コールセンターや営業部門が謝罪と説明に追われることになります。
また、影響を受けた件数や内容の調査、個人情報保護委員会への報告書作成、社内報告対応などが短期間で必要となり、通常業務が麻痺する恐れもあります。さらに、信用回復のための通知書送付や外部対応費用の発生も、現場にとって大きな負担です。
技術情報の流出
退職者が持ち出した設計図や仕様書、ソースコード、研究データなどの技術情報が外部に流出した場合、現場には大きな実害が及びます。特に深刻なのが、これらの情報が競合他社に売却され、不正利用されるケースです。
たとえば、自社独自の技術が模倣され、低価格で類似商品が市場に出回れば、自社製品の優位性は失われ、売上が大幅に落ち込むリスクがあります。営業現場では価格競争に巻き込まれ、値下げや契約解除を余儀なくされるなど、収益減につながる影響が出始めます。
また、研究開発部門では技術の刷新や再設計を余儀なくされ、予定していた新製品の投入が遅れることで、さらなる減収リスクを抱えることになります。こうした損失は短期的なものにとどまらず、中長期的な事業戦略やブランド価値にも打撃を与える恐れがあります。
業務中断のリスク
退職者が業務に必要なファイルや設定情報を無断で削除・持ち出した場合、現場では業務が突然止まるリスクに直面します。
たとえば、営業担当が顧客対応履歴を持ち出すと、引き継ぎを受けた社員が顧客との関係性や過去の対応方針を把握できず、失注の可能性が高まります。また、システム管理者がパスワードを変更したまま退職した場合、社内システムに誰もアクセスできず、復旧まで業務が停止するケースもあります。結果として、他部署にも影響が波及し、社内全体の混乱を引き起こすことになります。
損害賠償請求のリスク
退職者による情報持ち出しが原因で顧客や取引先に被害が生じた場合、現場は損害賠償対応に追われます。たとえば、流出した営業資料をもとに競合が顧客を奪取した場合、現場では取引停止や契約解消が相次ぎ、営業成績に大きな打撃を受けることがあります。
さらに、企業として損害賠償請求を行う場合には、証拠資料の整理や被害額の算定など、法務部門や該当部署が長期間にわたって準備を求められます。これにより本来の業務が停滞し、内部の士気も低下する恐れがあります。
刑事罰による信用低下リスク
退職者による情報持ち出しが悪質な場合、刑事事件として立件されることがあります。以下のような刑事罰が適用される可能性があります。
- 不正競争防止法違反:営業秘密(設計図・顧客リストなど)を第三者に漏洩・使用した場合に適用。10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金。
- 窃盗罪(刑法第235条):USBメモリや紙媒体など、会社の物理的な所有物を無断で持ち出した場合に成立。10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
- 電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2):システムへの不正操作により不法な利益を得た場合に適用。10年以下の拘禁刑
- 背任罪(刑法第247条):5年以下の懲役または50万円以下の罰金
これらの事件が報道されると、企業は「ずさんな情報管理体制」として社会的非難を受け、現場では顧客や取引先への説明対応、風評被害への対応に追われます。信用失墜は長期的な売上減や採用難にも直結するリスクです。
退職者による情報持ち出しは、企業にとって法的リスクだけでなく、信用・売上・採用といった経営面での深刻な打撃をもたらします。
フォレンジック調査会社では、証拠の保全・内部犯行の特定・外部流出の追跡調査を通じて、迅速かつ正確に持ち出しの実態を明らかにします。
「証拠があるか分からない」「何から着手すべきか迷っている」段階でも構いません。まずはご相談ください。
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退職者による情報持ち出しの事例
退職者による情報持ち出しによって企業が大きな損害を受けた事例を紹介します。
はま寿司情報持ち出し事件
2020年9月、はま寿司(ゼンショー)の役員であった田辺氏が、退職前に原価情報など営業秘密をUSBメモリを通じて不正に持ち出し、2022年にカッパ・クリエイト(かっぱ寿司)社長に就任した直後に当該情報が流用されたと見られています。社内調査後、田辺氏および社内協力者は不正競争防止法違反で2022年9月に逮捕・起訴され、田辺氏は社長を辞任しました。
「カッパ社」に罰金3,000万円、犯人には懲役2年6カ月執行猶予4年と罰金100万円の判決が下りました。
出典:日本経済新聞

900万件の個人情報が流出した事例
NTT西日本の子会社「NTTビジネスソリューションズ」では、元派遣社員によって約900万件に及ぶ顧客情報が不正に持ち出される事件が発生しました。元社員は、業務で使用していた顧客管理システムから大量の個人情報をコピーし、名簿業者に売却。事件発覚後の調査により、約10年間にわたり情報を不正に収集し、合計2,400万円以上の利益を得ていたことが判明しました。
企業側は不正競争防止法違反で刑事告訴し、加害者には懲役3年・執行猶予4年・罰金100万円の判決が下されました。この事例は、個人情報の取り扱いや外部委託先の管理体制の脆弱性を浮き彫りにするとともに、日常的なログ管理やアクセス制御の重要性を強く示しています。退職者や派遣社員による情報持ち出しリスクは、どの企業でも他人事ではありません。
退職者の情報持ち出しが発覚した場合の対応
退職者の情報持ち出しが何らかの形で発覚した場合、
社内で証拠保全と調査を実施する
退職者による情報持ち出しが疑われる場合、まず着手すべきは社内での証拠保全と初動調査です。曖昧な憶測ではなく、具体的な操作履歴やログに基づいた事実確認が不可欠です。業務用PCや社内ネットワークの操作ログ、ファイルのアクセス履歴、USBやメールの使用履歴など、持ち出しの痕跡を確認・記録し、証拠として保全します。
特に、退職前後の端末使用状況や不自然なファイル転送がないかを精査する必要があります。この段階でのミスや対応遅れが、後の訴訟や交渉に大きな不利をもたらすため、必要に応じてフォレンジック調査会社など専門家の協力を仰ぐことが効果的です。

弁護士や専門家に相談する
情報持ち出しの事実が判明した後は、社内対応だけでなく、法的視点からの対処を並行して進めることが重要です。特に、退職者の行為が秘密保持契約や就業規則に違反している場合、損害賠償請求や差し止め請求、さらには刑事告訴も視野に入れた対応が必要となります。
弁護士に相談することで、行為の違法性の判断や、法的リスクの整理、証拠の扱い方など、対応方針が明確になります。
また、データ持ち出しで訴訟を考えている場合は、フォレンジック調査会社と連携することで、電子端末の調査と、証拠として提出可能な調査報告書の作成も可能です。専門家の支援を早期に受けることで、対応にかかる時間や手間を最小限に抑え、より適切な解決へと導くことができます。
退職者へ内容証明郵便を送付する
証拠が一定程度そろい、違反行為が確認された場合は、退職者本人に対して速やかに警告を行う必要があります。ここで有効なのが、内容証明郵便の送付です。内容証明郵便は、通知内容や発送日を公的に証明できるため、後々の法的措置の根拠にもなります。
通知書には、持ち出された情報の返還要求や使用中止の要請、秘密保持契約違反による法的責任の可能性等について記載し、誠実な対応を促します。これにより、企業側の法的立場を明確に伝えることができます。文面の作成は、法的な整合性を担保するためにも、弁護士の監修を受けることが望ましいです。
再発防止策を実施する
退職者による情報持ち出しが一度発生した場合、同様の事態を防ぐための再発防止策が必須です。まずはインシデントの原因分析を行い、どのような経路で情報が流出したのかを特定します。その上で、アクセス権限の見直しや、私物端末の接続制限、ログ監視体制の強化といった技術的対策を講じましょう。
あわせて、退職手続き時のチェックリスト整備や、退職予定者へのセキュリティ面での説明強化も有効です。人的な対策としては、秘密保持契約や競業避止義務契約の見直し、従業員教育の徹底などが再発防止に寄与します。単なる処罰ではなく、組織としての課題を洗い出し、恒常的な情報管理体制の向上につなげることが重要です。
必要に応じて民事訴訟や刑事告訴を検討する
情報持ち出しが企業に実害を与えている場合、損害回復や再発抑止のために、法的措置を講じる判断も必要です。民事訴訟では、損害賠償や情報使用の差し止めを請求することができます。刑事告訴については、不正競争防止法違反、窃盗、電子計算機使用詐欺などの刑法犯に該当する可能性があります。
これらの措置は、企業が情報管理を重視している姿勢を内外に示す意味でも有効です。ただし、法的手続きには証拠の適正な収集や専門知識が求められるため、弁護士などと連携しながら進める必要があります。
警察に捜査してもらうための証拠が必要であれば、フォレンジック調査会社に相談することで、電子端末にデータを持ち出した痕跡が残ってないか調査し、報告書にすることが可能です。

退職者の情報持ち出し調査を行う場合、専門業者に相談する

退職者による情報持ち出しが疑われる場合、迅速かつ正確に事実を解明するためには、専門のフォレンジック調査会社に相談することが非常に有効です。
フォレンジック調査とは、業務用PCやスマートフォン、サーバーなどの電子機器に残された操作ログやファイル履歴を専門ツールで解析し、不正行為の有無や情報の持ち出し経路を科学的に特定する技術です。この調査によって、退職者がUSBメモリを使用したのか、クラウドサービスを介して情報を送信したのかなど、証拠となる行動を可視化できます。
また、調査報告書は法的証拠としても活用可能な場合があり、損害賠償請求や刑事告訴を行う際の資料として非常に強力です。社内のリソースだけでは十分な対応が難しい場合でも、第三者である専門業者が中立的かつ正確に調査を行うことで、問題解決をよりスムーズに進めることができます。
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退職者の情報持ち出し防止策
退職者の情報持ち出し防止策として有効な方法は以下の通りです。
機密情報にアクセス制限をかける
退職者による情報持ち出しを防ぐには、まず機密情報へのアクセス権限を厳密に管理することが重要です。社内のファイルやシステムへのアクセスは、業務上必要な範囲に限定し、部署や役職ごとに細かく制御します。
とくに顧客データや技術資料は、閲覧・編集権限を限定し、不必要な操作ができない環境を整える必要があります。また、退職が決まった社員に対しては、早期に権限を縮小し、退職日までの間にデータ流出を防ぐ体制を整えることが有効です。
ログ管理を行う
ログ管理は、不正な情報持ち出しを抑止し、万が一の事態に備えるうえで欠かせません。誰がいつ、どのデータにアクセスしたかを記録するアクセスログや、外部デバイスの接続履歴などを取得・保管することで、不審な操作を可視化できます。
加えて、異常操作を検知してアラートを出すシステムを導入することで、リアルタイムの監視体制も構築可能です。こうしたログは、トラブル発生時の証拠保全にも活用でき、企業を守る防壁となります。
クラウドサービスの利用制限をかける
私用クラウドへのファイルアップロードは、退職者による情報持ち出しの典型的な手口の一つです。業務用PCでは、個人のGoogle DriveやDropboxなどのアクセスを制限し、会社管理下のクラウドサービスのみ利用可能とする設定が推奨されます。
また、DLP(データ損失防止)ツールなどを導入し、機密情報の外部転送を自動で検知・ブロックする仕組みを構築することで、不正なデータ持ち出しのリスクを大幅に軽減できます。
情報管理に関する社内規定を見直す
情報の取り扱いルールが曖昧なままでは、退職者による不正を抑止することは困難です。就業規則や情報管理ポリシーを定期的に見直し、「私物端末への保存禁止」「退職時のデータ返却義務」などを明文化することが必要です。
また、違反時の懲戒処分や損害賠償請求の可能性も併せて記載することで、従業員に対する抑止力が高まります。ルールは作るだけでなく、全従業員に周知徹底することが実効性を高める鍵です。
従業員と秘密保持契約を結ぶ
雇用契約とは別に、従業員との間で秘密保持契約(NDA)を締結することで、退職後の情報流出を法的に抑止できます。この契約により、業務中に知り得た情報を退職後も第三者に漏らしてはならない義務が明確になります。
また、競合他社への転職を制限する競業避止義務契約もあわせて検討することで、より強固な対策が可能です。万が一情報漏洩が起きた際も、契約違反として損害賠償請求の根拠となります。
従業員にセキュリティ教育を実施する
セキュリティ対策はシステム面だけでなく、従業員一人ひとりの意識向上も不可欠です。特に退職前の従業員はリスクが高いため、情報持ち出しの違法性や企業への影響を周知する教育が重要です。定期的に研修やeラーニングを実施し、最新の情報管理ルールや具体的な事例を共有しましょう。また、退職時にはセキュリティ誓約書の再提出を求め、注意喚起を徹底することで不正の抑止につながります。
まとめ
退職者による情報持ち出しは、企業にとって重大な経営リスクです。個人情報や技術資料の流出は、信用失墜や損害賠償に発展するおそれがあり、放置すれば業務や法的対応にも深刻な影響を及ぼします。
万が一の事態に備え、証拠保全や初動調査の体制を整えるとともに、専門業者との連携による適切な対応が求められます。また、アクセス制限やログ管理、社内規定や教育の見直しといった予防策を平時から講じておくことで、リスクを大幅に軽減することが可能です。
情報資産を守るためにも、退職者が情報を持ち出したか調べる際は、確証が得られない段階でも専門家が在籍するフォレンジック調査会社に相談しましょう。