従業員の横領が発覚した場合、企業は速やかに対処する必要があります。しかし、従業員の権利は労働法で厳格に守られており、簡単に解雇することはできません。
特に明確な証拠を掴んでいない状態で解雇すると、不当解雇として扱われ、賠償金を請求される可能性があります。そのため従業員を解雇するためには、不正行為を証明する確実な証拠が必要です。
今回は、業務上横領した従業員を解雇する際の対処法を解説します。
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目次
業務上横領とは
業務上横領とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領すること」です。
例えば、「経理などが業務上会社から預かっている金品を自分のものにする」「運送業者が預かった荷物を奪う」などがあります。
業務上横領罪の量刑は「10年以下の懲役」と規定されており、業務とは無関係の横領について成立する単純横領罪よりも、重い罪に問われます。
業務上横領・着服によって企業が受ける損失
業務上横領や着服により、証拠を隠滅したまま資金を持ち逃げされると、企業は数千万円から数十億円もの被害を受ける可能性があります。
また、従業員が横領された資金を収入として受け取っていたことが正当に申告されていなかったり、横領を隠すために会社の収支記録を改ざんし不正な支出を正当な経費として計上したりする場合、税務署から「脱税」の疑いをかけられることがあります。脱税と判断されると、重加算税の支払い義務が課せられる可能性があるため注意が必要です。
業務上横領が発覚した場合、早めに犯人を特定し、懲戒解雇、刑事告訴、民事訴訟を行うことが重要です。
業務上横領の証拠収集はスピードと正確さが求められます。裁判の準備中に証拠隠滅したまま当該従業員が消息不明となる場合もあります。
警察に被害届を提出した場合も、捜査が入るまで時間がかかる場合があるため、証拠隠滅される可能性があります。従業員が業務上横領を行った際は、民間の調査会社にも相談して速やかに証拠を調査しましょう。
従業員を解雇するには明確な証拠が必要
横領が発覚した場合、企業として速やかに処罰を下す必要があります。しかし、従業員を解雇するには明確な証拠が必要です。
従業員労働法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されており、従業員の権利が守られています。
つまり、解雇の正当性を証明するためには、客観的な証拠を収集することが重要になってきます。
横領の証拠品
横領の証拠品は、「紙媒体の資料」と「デジタルデータ」から収集されます。
紙媒体の資料
横領を立証するためには、客観的な証拠が必要です。
一般的に不審なお金の流れを確認する書類には、下記のようなものがあります。
- 金品を勝手に売却した領収書
- 帳簿上の在庫と実数に食い違いのある資料
- 不明な伝票・架空取引と思われる伝票
帳簿などの金額の差異をチェックし、つじつまの合わない書類がないか確認しましょう。
デジタルデータ
横領の証拠として認められるものには、デジタルデータがあります。パソコン・スマートフォン・サーバー・USBメモリ・監視カメラなど、どのような電子端末でも証拠になりえます。横領の証拠になり得るデジタルデータの例は下記のとおりです。
- 社員がやりとりしていた電子メールの履歴
- 社員が不正を行っている様子を収めた監視カメラの動画
- 社員が自分の業務に関係のないWebサイトやデータへアクセスした履歴
- 社員がSNSを通じて公開している情報
これらのデジタルデータは社員が横領したことの立証に役立ち、万が一、不当解雇として裁判を起こされたとしても、明確な証拠があれば、有利に話を進めることができます。
しかし、メールの文面やスクリーンショットなどのデジタルデータを一般的な操作でコピーして提出しても、元データに改ざんがないとを証明するのは困難です。裁判では客観的な証拠として判断されず、企業側が不利になる可能性があります。したがって、業務上横領の事実を電子データで証明する場合は、フォレンジック調査が必要になります。
フォレンジック調査とは法的に正しい手続きを用いて、デジタル端末を解析する専門的な手法です。これにより、被害の実態を把握し、横領の手口や経緯を特定することができるため、企業は公平な調査を行ったことを証明し、訴訟や法的紛争のリスクを軽減できます。
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従業員の横領が発覚した後に企業が取るべき行動
従業員の横領が発覚した場合、企業は「懲戒解雇」「民事訴訟」「刑事訴訟」から処罰することができます。勝訴するためは、社員が横領したという確実な証拠を収集することが重要です。横領発覚時の企業が取るべき行動を下記に記載しています。
- 証拠の収集
- 本人から事情聴取
- 賠償金の請求
- 懲戒解雇
証拠の収集
まずは、従業員が横領を行った証拠を速やかに収集しましょう。金銭の流れや取引履歴などの財務データを詳細に解析する必要があります。また、監視カメラの映像や領収書、関係者の事情聴取の録音データなども重要な証拠となります。
ただし、証拠収集を表立って行うと、横領した本人や共犯者が証拠隠滅に動いたり、退職して逃亡したりする可能性があります。そのため、証拠の収集は水面下で行うようにしましょう。また、裁判や警察へ被害届を提出するための証拠を獲得する際は、第三者の調査機関に調査を依頼することをおすすめします。
本人から事情聴取
企業と第三者機関で協力体制を構築し、決定的な証拠の収集が完了した後、本人の事情聴取を行いましょう。
その際は聴取した内容のメモと録音を取ってください。横領した従業員が後から事実と反することを主張したとしても、メモや録音データがあれば、言い逃れを防ぐことができます。
事情聴取の際は、公平でプライバシーを尊重した場所で行い、証拠を提示して疑わしい取引やアクティビティに関する説明を求めましょう。高圧的な態度をとったり犯人と決めつけつような言動を行うことは厳禁です。逆に企業側が名誉棄損やパワハラで訴えられる可能性があります。
賠償金の請求
確実な証拠を獲得できた場合、横領による損失を埋めるため、損害賠償金の請求も選択肢の1つとなります。その際は、法的なアドバイスを求めて適切な賠償金額を算定し、本人と合意した旨を書面で残しましょう。万が一、横領金を使い込んでいた場合は、身元保証書の期限内であれば身元保証人へ賠償金を請求することも可能です。
賠償金決定の話し合いで合意が取れない場合や、横領の事実を認めない場合は、民事訴訟や刑事告訴を行うか検討しましょう。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が横領などの重大な違反行為を犯した場合に行われる解雇のことです。多くは退職金も支払われず、再就職も困難となってしまうため、適用の手順が厳格に定められています。
一方で、主張する従業員と会社が裁判で争うケースは多く、裁判で不当解雇とみなされた場合は企業側は解雇した労働者の復職や未払い分の賃金の支給などの義務が生じます。この場合、業務上横領したという確固たる証拠を掴むことが必要です。
民事訴訟の場合は警察が介入できないため、横領した従業員を懲戒解雇する場合は専門の調査機関に依頼し、確実な証拠を収集しましょう。
従業員の横領調査をしたい場合は専門業者に相談する
不正アクセス、社内不正、情報持ち出し、職務怠慢のような問題が発生した場合、どのような経路で、どのような情報が漏えいしたのか、被害の全容を正確に把握する必要があります。しかし、自力で調査を行うと、調査対象範囲が適切でなかったり、意図しない証拠データの消失が発生しやすく、不完全な結果になる恐れがあります。
このような事態を防ぎ、適切な調査によって原因究明を行うためにも、フォレンジック調査の専門家に相談することが重要です。フォレンジック調査では、インシデント対応のプロが初動対応から、専門設備での端末の調査・解析、調査報告書の提出ならびに報告会によって問題の解決を徹底サポートします。
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