Adobe製品は、PhotoshopやIllustrator、Acrobatなど幅広い場面で利用されていますが、近年はマルウェアの標的となるケースが増加しています。
「動作が重い」「保存ファイルが改ざんされている」といった異常がある場合、マルウェア感染の可能性が高く、放置すれば情報漏えいや業務停止など深刻な被害に発展するおそれがあります。
感染が疑われる場合は、スキャンだけでは感染の原因や被害の全体像を正確に把握できない可能性があるため、感染経路の特定や被害範囲の分析、情報漏えいの有無まで対応できるマルウェア感染調査の活用が効果的です。
この記事では、Adobe製品が狙われる理由や代表的なマルウェアの種類、感染時の症状、予防策までをわかりやすく解説します。
目次
Adobe製品がマルウェアの標的となる理由
Adobeは、Photoshop、Illustrator、Premiere Proなどのクリエイティブ系ソフトを展開し、ビジネスや教育機関、官公庁など幅広い現場で活用されています。
特に以下の3つの製品は、PDFによる文書の閲覧・承認・署名といった業務に深く関わっており、攻撃者にとって魅力的な標的となっています。
- 「Adobe Acrobat」
- 「Adobe Reader」
- 「Adobe Sign」
PDFファイルは一見ただの文書に見えますが、内部には以下のような要素を含めることにより、マルウェアを仕込むことが容易であり、攻撃に悪用されやすい形式とされています。
- JavaScript
- 埋め込みファイル
- 外部リンク(リダイレクトなど)
さらに、Adobe製品はセキュリティに詳しくない一般ユーザーにも広く使用されているため、ファイルが開封されやすく、だまされやすいという点でも攻撃成功率を高める要因となっています。
加えて、アップデートが後回しになりやすく、古いバージョンがそのまま使われているケースが多いのもリスクの一つです。実際、「Adobe Acrobat」や「Reader」を狙ったゼロデイ攻撃や脆弱性の悪用は多数確認されています。
なお、すでにサポートが終了している「Adobe Flash Player」も、かつてはマルウェアの主要な侵入経路とされていました。
Adobe製品を悪用する主なマルウェアの種類
Adobe Acrobatや旧バージョンのFlash Playerは、業務用途から個人利用まで幅広く活用され、長年にわたって高いシェアを保ってきました。結果、攻撃者にとっても狙いやすい標的となっており、PDFファイルや偽インストーラーを悪用したマルウェアは、現在でも継続的に確認されています。
ここでは、Adobe製品を悪用して拡散・感染を狙う代表的なマルウェアの種類をご紹介します。
PDFエクスプロイト型マルウェア
PDFファイル内に埋め込まれたJavaScript(PDFで動作するスクリプト)やFlashコンテンツを利用し、Adobe AcrobatやReaderの脆弱性(例:CVE-2009-4324)を突いてマルウェアを実行する攻撃です。とくに古いバージョンを使用している場合は、PDFを開くだけで自動的に感染する例も報告されています。
最近では、埋め込まれたリンクやQRコードから不正サイトに誘導し、マルウェアを取得させる手口も増加しています。
参考資料:ScanNetSecurity
偽インストーラー型マルウェア
Adobe ReaderやFlash Playerのインストーラーに見せかけた実行ファイル(例:Reader_Setup.exe)を配布し、実行させることでマルウェアを感染させる攻撃です。ファイルの中には、情報を盗むインフォスティーラーや外部から操作を受けるバックドアなどが仕込まれており、実行直後から被害が発生します。
DLLハイジャック(正規のDLLより先に不正なDLLを読み込ませる)やUACバイパス(ユーザーの許可を回避して管理者権限で実行する)といった技術が併用されることもあります。
参考資料:The Hacker News
Flash型マルウェア
旧バージョンのAdobe Flash Playerには深刻な脆弱性が多く含まれており、悪意あるSWFファイル(Flash形式)を通じてマルウェアが実行される事例が多数確認されました。Webページの閲覧やPDFファイルの表示時に感染が始まるケースも見られます。
参考資料:JPCERT
Flash Playerは2021年に正式にサポートが終了し、現在はほとんどの環境で無効化されています。しかし、古い業務端末や更新が止まっているシステムでは、今なお攻撃経路として残っている場合があり、注意が必要です。
フィッシング型
Adobeを装った偽のPDFファイルやメールリンクを使い、ユーザーを偽のログインページやフォームへ誘導し、認証情報や個人情報を盗み取る攻撃です。
最近では、OAuth認証(アプリに一時的なアクセス権を与える仕組み)を悪用し、Microsoft 365のアカウントからメール・ファイル・連絡先などを不正に取得するケースも増えています。
参考資料:BleepingComputer
Acrobatを標的にした代表的な6つの攻撃手法
Adobe Acrobatを悪用するマルウェアの多くは、使用者の操作を巧みに誘導しながら、PDFファイルや関連機能を利用して感染を広げます。
以下に、代表的な攻撃手法です。
PDFの脆弱性を悪用した攻撃
Adobe AcrobatやReaderに存在する脆弱性を突いた攻撃は、現在でも多く確認されている代表的な手法です。攻撃者は、悪意あるコードを埋め込んだ特殊なPDFファイルを作成し、メール添付や不正なWebサイトを通じて配布します。
利用者がこのようなPDFファイルを開いただけで、内部のスクリプト(主にJavaScript)が自動的に実行され、マルウェアが端末にダウンロード・感染する危険性があります。特に脆弱性が修正されていない古いバージョンを使用している端末は、攻撃成功率が高くなります。
PDF経由のマルウェア感染の仕組みや、具体的な予防策については以下の記事で詳しく解説しています。

偽のAdobe Acrobat Readerインストーラーによる誘導型攻撃
正規のAdobeサイトを模倣したフィッシングページが使われ、利用者に偽のインストーラーをダウンロードさせる手口です。インストーラーにはマルウェアが組み込まれており、実行と同時にバックドアやスパイウェアがインストールされます。検索広告やSNS経由で誘導されるケースも確認されています。
Acrobat Signを装ったフィッシング詐欺
電子契約サービス「Adobe Acrobat Sign」を装ったフィッシングメールを用いて、契約書の確認や署名依頼を偽装し、マルウェア付きのPDFやリンクを開かせる手法です。ビジネスメールを装うことで信頼性を高め、受信者に開封させる工夫が施されています。
偽物の証明書を使ったマルウェア感染
本物のAdobe製品に見せかけるため、デジタル証明書を偽造する攻撃も存在します。セキュリティソフトの警告を回避し、企業ネットワーク内でも信頼されたソフトとして誤認されやすくなります。信頼性があるように見せかけたPDFファイルやインストーラーには注意が必要です。
Adobeプラグイン機能を使った攻撃手法
Adobe Acrobatはプラグイン機能により機能拡張が可能ですが、悪用して不正なコードを組み込む攻撃もあります。使用者が通常のPDFを閲覧している間に、裏でマルウェアが実行されるため、気付きにくいという特徴があります。
USBデバイスを介した感染拡大
社内ネットワークから切り離されたパソコン環境でも感染が広がるように、USBメモリを媒介としてマルウェアを拡散させる攻撃手法があります。USB内に細工されたPDFファイルを仕込むことで、オフライン環境でもAdobe製品を通じてマルウェア感染が進行する可能性があります。
USBを経由した感染の仕組みや、具体的な対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
https://digitaldata-forensics.com/column/cyber_security/22580/
感染した場合に現れるAdobe Acrobatの6つの症状
Adobe Acrobatにマルウェアが仕込まれている場合、利用者が気づかないうちに異常な動作が発生することがあります。感染が進行すると、業務の停止や情報漏洩といった深刻な被害に発展するおそれがあります。
以下に、感染時に多く見られる6つの代表的な症状を紹介します。
PDFファイルを開いただけで異常な動作が起きる
通常のPDF閲覧時には発生しないエラーメッセージやクラッシュ、画面のフリーズなどが起きる場合、内部に悪意のあるスクリプトやコードが埋め込まれている可能性があります。とくに、開いた瞬間に画面がフラッシュしたり、謎の処理が始まるような挙動は警戒が必要です。
PDFを開いた直後に外部との通信が発生する
ネットワークモニタリングで確認すると、PDFファイルを開いた直後に不審なIPアドレスや海外サーバーとの通信が行われているケースがあります。マルウェアが外部のC2サーバーと接続し、情報を送信している可能性があります。
Adobeの正規ファイルが改ざんまたは差し替えられている
Adobeの実行ファイル(例:Acrobat.exe)が正規のものと異なっていたり、ファイルサイズやデジタル署名が一致しない場合、マルウェアによってファイルが改ざん・置換されている可能性があります。このような場合、セキュリティソフトでも見逃されるリスクがあります。
Acrobatの起動が極端に遅くなる
感染によってバックグラウンドで不要な処理や外部通信が発生し、Acrobatの起動や動作が著しく遅くなることがあります。ソフトウェアや端末スペックに問題がないにもかかわらず、遅延が続く場合は注意が必要です。
意図せずPDFの生成・保存・印刷が行われる
使用者の操作とは無関係にPDFが自動生成されたり、印刷・保存のダイアログが繰り返し表示される場合、マルウェアがスクリプトを用いて強制的に操作を行っている可能性があります。大量の印刷指示を送る「プリンタードス攻撃」も報告されています。
Acrobatの設定が勝手に書き換えられている
JavaScriptの有効化や保護モードの無効化、信頼済みサイトの自動追加など、本来変更しない設定が書き換えられている場合は、マルウェアによる事前準備が行われている可能性があります。
上記のいずれかに複数当てはまる場合は、外部からの不正アクセスやマルウェア感染が進行している可能性があります。
Adobe製品や端末を安全に使い続けるためには、異常に気づいた時点ですぐにネットワークを切断し、ウイルス対策ソフトでスキャンを実施しましょう。
ただし、スキャンだけでは、「どこから感染したのか」「どのファイルが改ざん・流出したのか」「影響がどこまで広がっているのか」といった被害の全容を把握することは難しい場合もあります。
そのため、感染の有無や被害範囲を客観的に確認したい場合は、専門調査会社によるマルウェア感染調査の実施が有効です。
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Adobe製品を使ったマルウェア感染の予防策
Adobe AcrobatやReaderなどのAdobe製品は便利で広く使われていますが、マルウェアの侵入経路として悪用されることもあります。リスクを防ぐには、常に最新版を利用し、公式ストア以外からのインストールを避けることが基本です。
日常的な基本対策を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

さらに以下のような追加予防策を実施することで、安全性を一層高めることができます。
組織で利用する場合は、運用ルールの整備やパッチ管理、脆弱性スキャンの実施も重要です。
JavaScriptの無効化設定
PDFに埋め込まれた不正なスクリプトの実行を防ぐには、Adobe Acrobatの設定からJavaScriptを無効にすることが効果的です。
- Adobe Acrobatを起動する
- 「編集」→「環境設定」を選択
- 左のメニューから「JavaScript」を開く
- 「Acrobat JavaScriptを使用」のチェックを外す
Adobe Acrobatの自動アップデートを有効にする
既知の脆弱性を悪用した攻撃を防ぐためには、Adobe Acrobatを常に最新の状態に保つことが重要です。自動アップデート機能を有効にすれば、セキュリティパッチも迅速に適用されます。
- 「編集」→「環境設定」→「アップデーター」へ移動
- 「自動で更新を確認し、インストールする」を選択
プラグイン機能を無効化または制限
プラグインを通じて不正コードが実行される事例も報告されています。不要なプラグインは無効化し、信頼できるものだけを有効にしておく設定が推奨されます。
- 「編集」→「環境設定」→「一般」を開く
- 「起動時にすべてのプラグインを読み込む」のチェックを外す
- 必要に応じて、保護モード(サンドボックス機能)を有効にする
Adobe Acrobatに異常が発生した場合は、「修復インストール」によって復旧できることがあります。改善が確認できない場合は、一度アンインストールを行い、Adobe公式サイトから最新版を再インストールしてください。
マルウェアによる感染が進行していると考えられる場合は、対応を誤ると被害が拡大するおそれがあります。下記の記事で具体的な対処方法を確認しておくことをおすすめします。

自力で対応できない場合はフォレンジック調査の専門業者に依頼する

ハッキングや不正アクセス、ウイルス感染、情報漏えいなどの問題が起きた際、自分だけでの対応が難しいと感じたら、迷わずフォレンジック調査の専門業者に相談しましょう。
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【初めての方へ】フォレンジックサービスについて詳しくご紹介
【サービスの流れ】どこまで無料? 調査にかかる期間は? サービスの流れをご紹介
【料金について】調査にかかる費用やお支払方法について
【会社概要】当社へのアクセス情報や機器のお預かりについて
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(※1)集計期間:2016年9月1日~
(※2)集計機関:2017年8月1日~
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