産業用マルウェアは、もはや“生産停止”だけでは済まされない段階に達しています。
Triton（別名Trisis／Hatman）は、物理的な安全を守る「安全計装システム（SIS）」そのものを無効化し、工場やプラントにおいて事故や爆発を引き起こす可能性を持つ極めて危険なマルウェアです。
2017年に中東の石油化学施設で初めて発見されたこの攻撃は、インフラ運営者に対し「安全装置さえも狙われる時代」に突入したことを突きつけました。
本記事では、Tritonの仕組みや攻撃の流れ、攻撃対象となった制御機器、想定されるリスクとその対策について、初学者にもわかりやすく整理して解説していきます。
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目次
Tritonとは？安全計装システム（SIS）を狙うマルウェア
Tritonは、Schneider Electric製のTriconex SIS（Safety Instrumented System）に対する攻撃を目的に開発されたマルウェアです。
このSISとは、工場やプラントにおいて異常を検知した際に、機器を自動停止させる「フェールセーフ」機能を担う重要な制御装置となっています。
通常、SISは制御ネットワークや業務ネットワークから物理的に分離されており、直接攻撃されることは極めて稀とされてきました。
- 初観測：2017年 中東の石油化学プラント
- 対象機器：Schneider Electric Triconex SIS
- 攻撃目的：SISの無力化、重大事故の引き起こし
- 別名：Trisis、Hatman
Tritonの構造と主な機能
Tritonは、対象環境にある正規のエンジニアリングワークステーションを通じて、SISへ不正なロジックを書き込むことで動作します。
- TriStationプロトコルを使ってTriconex SISと通信
- 不正な安全ロジック（ロジックファイル）を送信・書き換え
- 正規の機能を偽装したままフェールセーフ機能を無効化
- 制御機器が異常を検知しても停止しない状態を作る
- 事故・爆発・毒性ガス放出などのリスクを直接生む
被害事例と社会的インパクト
2017年の事例では、実際にSISが異常を検知して緊急停止が作動し、重大事故は未然に防がれましたが、攻撃の意図は明らかに“事故を引き起こすこと”にありました。
制御ロジックの書き換えや通信の偽装は、明らかに高度な専門知識を持つ攻撃者によるものであり、国家組織（ロシア）が関与した可能性が指摘されています。
- ICSマルウェアとしてStuxnet以来の深刻な攻撃
- 操業停止ではなく「生命に直結する攻撃」が現実
- 「殺人マルウェア」として報道・分析が行われた
ICS環境におけるTriton対策のポイント
TritonのようなSISへの攻撃は、従来のITセキュリティではカバーしきれないため、OT（制御システム）セキュリティの強化が必須です。
- SISネットワークの物理的・論理的分離
- TriStation通信の監視・可視化
- ロジックファイルの整合性検証（ハッシュ管理）
- ワークステーションのアクセス制御と監査ログの取得
- ICS専用セキュリティ製品による異常通信の検知
- 制御エンジニア向けのセキュリティ教育の徹底
SISを狙う時代のセキュリティへ
これまで「最後の砦」と考えられていた安全計装システム（SIS）でさえ、Tritonのような高度なマルウェアの標的になり得る時代です。
OT・ITの垣根を越えたサイバーセキュリティ体制と、制御系ネットワークの構成管理・監視体制の再構築が必要です。
一度の改ざんが「工場の爆発」や「人命への被害」につながることを考えると、Triton対策は情報漏洩対策以上に重く受け止めるべきサイバーリスクです。
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