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刑事デジタル法とは?電子令状・電磁的記録提供命令の概要と懸念点を解説

刑事デジタル法

2025年に成立した「刑事デジタル法」は、紙と対面を前提としていた刑事手続を大きく変える法改正として注目されています。電子令状の導入や、クラウド上のデータを対象とする「電磁的記録提供命令」の新設など、デジタル証拠を扱うための制度が本格的に整備されました。

一方で、プライバシーや情報の過剰収集リスクも指摘されており、制度の運用と技術的対策の両面から慎重な設計が求められています。

本記事では、刑事デジタル法の背景・対象制度・主な課題を整理し、企業や弁護士が備えるべき視点や、フォレンジック調査との関係性についても解説します。

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刑事デジタル法とは?成立の背景と目的

いわゆる「刑事デジタル法」とは、正式には「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」を指します。

この法律は2025年5月16日に可決・成立し、同月23日に公布されました。刑事訴訟法を中心に、刑法・通信傍受法など複数の関連法を横断的に見直す内容で、2026年度末までの全面施行を目指しています。

法務省は本改正について、「証拠や手続のデジタル化を通じて、刑事司法の迅速化・効率化を実現し、サイバー犯罪や新たなデジタル犯罪への対応を強化するもの」と説明しています。

なぜ今、刑事手続のデジタル化が必要だったのか

社会のデジタル化により、犯罪の手口や証拠の形態も大きく変化しました。スマートフォン、SNS、クラウドサービスを利用した詐欺や脅迫、ランサムウェアによるサイバー攻撃など、従来の捜査方法や証拠保全では対応が難しい事件が増えています。

一方で、従来の刑事手続は紙媒体や物理的な出頭・押収を前提としたものであり、遠方の裁判所への令状申請や、分散された電子データの押収・提示に多大な時間とコストがかかっていました。

こうした背景から、刑事手続の各段階をデジタルで完結できる制度への移行が求められ、刑事デジタル法という包括的な改正に至りました。

出典: 法務省

刑事デジタル法で変わる主要制度とその内容

刑事デジタル法では、以下の4つの制度が新たに導入・整備されました。いずれも、刑事手続におけるデジタル化の中核をなす制度であり、司法実務に大きな影響を与えることが予想されます。

電子令状制度:逮捕・捜索などの手続きをオンライン化

警察官や検察官が裁判所に対して、逮捕状や捜索・差押許可状を請求する際、従来は紙媒体と物理的な出頭が必要でした。

電子令状制度の導入により、オンラインでの請求・発付・呈示が可能になります。これにより、遠方の裁判所に出向く必要がなくなり、迅速な対応や人員負担の軽減が期待されています。

証拠書類の電子化:供述調書などの記録をデジタルで管理

これまで供述調書などの証拠書類は紙で保管され、弁護人が閲覧・謄写する場合は物理的に出向き、コピーを取得する必要がありました。

刑事デジタル法では、これらの書類を電子化し、オンラインで閲覧・取得できるようにすることで、防御権の実効性と手続きの効率性を両立させる仕組みが整備されます。

大量の証拠資料が必要となる事件では、コピー費用の削減や移動コストの低減といった実務的メリットもあります。

遠隔出廷(ビデオリンク):証人・被害者・被告人の出廷を柔軟に

ビデオリンク方式による出廷制度は、身体的・地理的制約のある被告人や証人にとって、出廷負担を軽減する重要な手段となります。

刑事デジタル法により、このビデオリンク方式の対象が拡充され、証人・被害者参加制度の利用者などにも適用されることになりました。たとえば、高齢者や被害による精神的ダメージを抱える証人などが、自宅や別室からの出廷を選択できるようになります。

電磁的記録提供命令:オンラインでの証拠取得を可能に

「電磁的記録提供命令」は、今回の法改正で新たに創設された制度です。通信事業者やクラウドサービス事業者などに対して、メール・SNS・クラウド上のログなどのデータを、オンラインで捜査機関へ直接提供させる仕組みです。

従来は、データの写しを記録媒体(例:USB)に保存し、それを物理的に差し押さえる方法が主流でしたが、この制度により、サーバー上のデータを迅速に、かつ遠隔で取得できるようになります。

この命令に正当な理由なく応じない場合には罰則も設けられており、刑事手続における証拠収集手段として大きな制度転換といえます。

参考資料: 日本経済新聞

電磁的記録提供命令に対する主な懸念点

電磁的記録提供命令は、デジタル時代に即した新しい捜査手段として期待される一方で、制度設計や運用方法によっては重大な人権侵害につながる可能性があるとして、各方面から以下のような懸念が指摘されています。

過剰収集のリスク

電磁的記録提供命令では、「特定のデータを提出させる」とされているものの、現実には事業者側が対象範囲を厳密に判断することが困難で、関係のない個人情報まで収集されるおそれがあると指摘されています。

特にSNSやクラウドメールなど、複数のユーザー情報が混在するサービスでは、必要最小限の情報だけを抽出する技術的・制度的仕組みが未整備であることが課題です。

秘密保持命令とユーザー通知の制限

電磁的記録提供命令には「秘密保持命令」を付随させることができ、事業者は、命令を受けた事実そのものを開示してはならないとされています(原則1年以内)。

これは捜査の秘匿性を担保する一方で、情報提供の対象となった本人が何も知らないままデータを取得されるという状況を生みかねません。

救済措置の限界と準抗告の課題

取得されたデータが過剰であった場合でも、データ主体が準抗告などを通じて不服を申し立てるには、「命令の存在を知っている」ことが前提となります。

しかし、秘密保持命令が課されている間はその前提が失われるため、実効的な救済措置が機能しにくいという制度上のジレンマがあります。

収集後のデータ削除義務の欠如

仮に、収集が違法または過剰であったと判断されても、取得済みのデータを捜査機関が削除・廃棄する法的義務は明文化されていません

このため、違法収集がなされた場合でも、形式上の「処分の取消し」だけで、データが恒常的に保有され続けるという問題があります。

附帯決議と今後の制度改善課題

国会審議では、こうした懸念を踏まえた修正・附帯決議がなされました。具体的には、以下のような対応が盛り込まれています。

  • 秘密保持命令は原則1年以内と明示
  • 捜査機関は、事件と関係のない個人情報の取得を避けるよう特に留意すること

しかし、これらはあくまで努力義務・運用上の留意にとどまり、制度的な歯止めには不十分とする声も多くあります。今後は、データ取得後の削除ルールや、本人通知・異議申し立ての仕組みなど、さらなる制度整備が求められます。

出典: 衆議院

刑事手続きのデジタル化に伴うセキュリティ対策

証拠や捜査資料のオンライン化が進む中で、もう一つの大きな論点となるのが「システムの安全性」です。データの改ざん・漏えいがあれば、裁判の公正性や捜査の信頼性に深刻な影響を与えるため、法務省とデジタル庁は以下のような技術的対策を進めています。

国の取組:法務省とデジタル庁の連携による設計と運用

刑事デジタル法により、令状請求・証拠閲覧・データ提供といった重要な刑事手続がオンラインで完結するようになるため、信頼性の高い情報インフラが必要不可欠となります。

法務省は、デジタル庁と共同で安全な通信・記録・保全の設計を進めており、「サイバー攻撃への対策」や「改ざんの痕跡検知」を前提に、厳格な技術仕様を取り入れる方針を示しています。

出典: 法務省

導入される主なセキュリティ技術

デジタル証拠の取扱いにおいて、真正性(=改ざんされていないこと)と機密性(=漏えいしないこと)を確保するため、以下のような技術要素が導入されます。

  • 通信経路の暗号化:インターネットを介した令状請求や証拠提出において、TLSなどの暗号通信を標準化
  • 電子署名・タイムスタンプ:提出された証拠が正しい時点で作成されたことを証明し、改ざんを防止
  • アクセスログの記録:誰が・いつ・どの情報にアクセスしたかを追跡可能にし、漏えいや内部不正を防止
  • ハッシュ値による改ざん検出:データの整合性確認に不可欠な技術で、取得時・提出時・閲覧時に同一性を検証

これらの技術は、すでに民間のフォレンジック調査や電子契約システムでも活用されており、司法手続の信頼性を保つための基盤として期待されています。

出典: 法務省

フォレンジック調査と制度の接点、企業が備えるべき体制

刑事デジタル法の制度内容を理解するだけでなく、実際の運用や捜査協力の場面で求められる対応も整理しておくことが重要です。

刑事デジタル法によって導入された制度は、フォレンジック調査の実務と密接に連携する場面があります。とくに、以下のような観点で、技術と制度を接続する設計が重要です。

  • 取得ルートの整理:電磁的記録提供命令や電子令状による取得が、ログ・端末データ収集の出発点になります。
  • 技術フローの整備:取得 → 保全 → 解析 → 報告という一連のプロセスが、制度に準拠して設計されている必要があります。
  • チェーン・オブ・カストディ:誰が、いつ、どこで、どのデータを扱ったかを記録する「証拠管理の連続性」の担保が求められます。
  • プライバシー保護:関係のない情報を取得・保有しないために、マスキングや取得基準を文書化しておく必要があります。

企業が備えるべき社内体制とポリシー整備

万が一、刑事事件に関連したログ提出やデータ提供の要請があった場合、企業として以下のような内部体制を整備しておくことが求められます。

  • フォレンジック対応ポリシー(取得判断・保存方針)
  • 標準オペレーション手順書(SOP)の整備
  • 社内CSIRT・法務・情報システムとの連携体制
  • ログの保全・改ざん防止の技術的仕組み

とくに、クラウドやM365など外部環境のログを扱う場合は、取得可能な情報の範囲や、事業者側との連携方法も含めて整理しておくことが望まれます。

インシデント発生時の専門支援体制

マルウェア感染、不正アクセス、社内の情報持ち出しなどが発生した場合、早期対応と技術的な証拠の確保が極めて重要です。自力での調査には限界があり、誤操作で証拠を失うリスクも高いため、専門的な支援を受けることが推奨されます。

参考資料:法務省

参考資料:日本経済新聞

デジタルデータフォレンジックでは、インシデント対応の専門家が初動対応から徹底サポートします。専用の解析設備を使い、ネットワークや端末を詳細に調査・解析し、調査報告書の提出や報告会まで対応することが可能です

官公庁・上場企業・捜査機関など幅広い組織への対応実績があり、専門の担当者とエンジニアが迅速かつ正確に調査を実施します。

相談から初期診断・お見積りまで、24時間365日無料でご案内しています。お電話またはメールでお気軽にお問い合わせください。状況をヒアリングし、最適な対応方法をご案内いたします。

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この記事を書いた人

デジタルデータフォレンジックエンジニア

デジタルデータフォレンジック
エンジニア

累計ご相談件数39,451件以上のフォレンジックサービス「デジタルデータフォレンジック」にて、サイバー攻撃や社内不正行為などインシデント調査・解析作業を行う専門チーム。その技術力は各方面でも高く評価されており、在京キー局による取材実績や、警察表彰実績も多数。

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